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​心配性

(二人 走ってくる)
 
なんとか逃げてこれたね。
大丈夫だった? 怪我はない?
そうか、よかった。
もう追っては来ないだろう。
ここまで来たんだし。
これでも飲んで落ち着いて。
 
(手に持っていたドリンクを渡す)
 
それにしても、女の子を付け回すなんて。
やってることは変態と変わらないじゃないか。
しばらくは不安だろうから、家まで送ろうか?
あぁ、いいよ。
ここから五分くらいだしね。
 
…え? なんでって。
そりゃ知ってるさ。 君の家だろ?
駅から徒歩十五分の立地。
君は歩くのが少し早いから、十三分でマンションまでたどり着く。
そこからエレベーターに乗って九階の左から三番目、九○三号が君の部屋。
マンションに着いてから部屋に入るまで約二分だから、結局、十五分には変わりないけどね。


他に質問は?
 
…何言ってるんだ。
毎日一緒に帰ってるじゃないか。
十九時二十八分着、君は改札を抜けると北口へ出て、目の前にあるコンビニで、決まって買い物をするだろ?
あぁ、毎日は言い過ぎた。
月火水と金曜土曜。
土曜日は十九時三十四分着になる。
そしてその日は家に直行。
二十時半からジムがあるからね。


何か間違った?
 
…あぁ。 わかった、わかった。
正直に話すよ。
君は、僕と付き合ってる。本当だ。
このことを伝えるべきか迷ってたんだけど、その日が来たら、ちゃんと話そうと思ってた。
君は…僕の恋人だって。
 
君が僕を好いているのは重々承知しているし、僕も君と同じくらい君のことを好いている。
だから安心して。
僕とずっと一緒にいたい。
僕と同じ空気を吸っていたい。
君の気持ちは痛いほどよくわかる。
 
大丈夫。僕も同じだ。
 
…どうしたの? 警察に電話? なんで?
さっきの変態はもう追ってこない。
僕といれば安心だ。
 
…なんだいその顔は?
…あぁ、そうか! 僕はなんてひどいことを!
悪かった、許してくれ! 本当にすまない!
 
君を送ったあと、僕は帰っちゃうから、独りで夜を過ごすのが不安なんだね。
…いいよ。 今夜は一晩中、僕がマンションの下で見守っていてあげる。
おっと、ただし…一晩だけだぞ。
 
なんだって? 落ち着けって!
ちょ、待てよ! …おい、どこに行くんだよ?
…ったく、しょうがないな。
手の焼けるお嬢さんだ。
 
おーい、夜道は危ないぞ。
 
end

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