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良きに計らえ

【殿】勝政(かつまさ)。捕虜たちはどうしておる。


【勝政】は。
【勝政】先の戦において、捕虜として捕らえた者たちの処遇でございますが、
【勝政】命により忠誠を誓う者には仕官させ、そうでない者は外れの長屋に住まわせました。


【殿】なるほどな…え。
【殿】長屋? 住まわせてるの?


【勝政】は。
【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】あー…なるほど(?)
【殿】…捕虜は何名だったかの?


【勝政】は。
【勝政】年齢は様々ですが、十代から二十代。
【勝政】男が十名、女が二十名、


【勝政】その他合わせて三十一名でございます。
【殿】その他? その他って何?


【勝政】は。
【勝政】それが…見た目は無精髭の生えた男なのですが、己のことを『アチキ』と呼び、腰をくねらせ、
【勝政】何とも形容しがたい人物でして…お、思い出しただけでもオロロロロ。


【殿】吐かないで吐かないで! 思い出さなくていいから!
【殿】…まぁよい。 して、仕官したのは何名だ?


【勝政】は。
【勝政】一名でございます。


【殿】一名?! え、少なくない?!


【勝政】は。
【勝政】我々も粘ってはみたものの。
【勝政】忠誠を誓う者は、その一名のみでした。


【殿】そうか。
【殿】我もまだまだ、ということかの。


【勝政】そのようなこと!


【殿】まぁよい。
【殿】其奴(そやつ)を呼んではもらえぬか。
【殿】話がしたい。


【勝政】は。
【勝政】只今、使いの者ヲロロロロ。


【殿】わかったわかった!
【殿】だいたい察したから! 後にして!


【勝政】ははぁ~。


【殿】他の捕虜…長屋はもちろん、男と女を分けて住まわせているんだろうな?


【勝政】は。
【勝政】もちろんでございます。
【勝政】男女を隔て、一晩毎に男一人と女二人を引き合わせております。


【殿】…なんて?


【勝政】は。
【勝政】隔てております。


【殿】そこじゃない。


【勝政】は。
【勝政】引き合わせております。


【殿】そこ…もだけど、そこじゃない。


【勝政】は?


【殿】あ?


【勝政】あ、いえ。


【殿】おほん。 一晩…何と?


【勝政】は。
【勝政】一晩、男と女を引き合わせております。


【殿】一対一?


【勝政】は。
【勝政】男一人と女二人でございます。


【殿】なんで?!
【殿】一対一でもなんで?! ってなってるのに!
【殿】と言うか、住まわせてるってなんで?! ってなってるのに!
【殿】一対二ってなんで?!


【勝政】は。
【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】申したけどさぁ。 我、申したけどさぁ!
【殿】いい思いさせたげてってことじゃないのよ。
【殿】我も大名やってるけれども!
【殿】そんないい思いしたことないよ?!
【殿】弱小だもん!


【勝政】そのようなこと!
【勝政】私めでよければ、いつでも!
【勝政】この身を捧げる所存でございまする!


【殿】違う! お主じゃヤだ!


【勝政】私めでは殿のお役に立たぬと?


【殿】それはさ! 違うじゃん!
【殿】そうじゃないじゃん!


【勝政】捕虜に奉仕させるわけにもならぬゆえ!
【勝政】何卒お許しを!


【殿】よいよい。 頭を上げぬか。
【殿】その件は別途、良きに計らってもらえればかまわん。
【殿】主はよくやっておる。 楽にせい。


【勝政】ははぁ~。


【殿】でだ。
【殿】引き合わせてどうするのだ?


【勝政】は。
【勝政】我が藩の先を見越し、捕虜に子を産ませ、将来的に武士へと育て上げる算段でございます。


【殿】それは…お主が命じたのか?


【勝政】いえ。
【勝政】殿の命にあられまする。


【殿】そのようなことを申したかの?


【勝政】は。
【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】ほ~ん。
【殿】そう…だったな。
【殿】そうだったそうだった。
【殿】さすがはお主だ。 わかっておるではないか。


【勝政】は。
【勝政】ありがたきお言葉。


【殿】して。
【殿】捕虜を捕らえたのは誰だったかの。


【勝政】は。
【勝政】吉川家の次男、実継(さねつぐ)様でございます。


【殿】あぁそうだ、実継(さねつぐ)じゃ。
【殿】確か褒美として、いくらか土地を渡したな。


【勝政】は。
【勝政】褒美として二万石。


【殿】え?


【勝政】褒美として二万石。


【殿】にま、二万?!


【勝政】は。
【勝政】さらに実兄の正継(まさつぐ)様、それに父君の吉継(よしつぐ)様の分まで寄越せ、
【勝政】さもなくば敵国に寝返る、とのお達しがあり、正継様に五万石、吉継様に八万石を与えました。


【殿】なんで?! なんで要求飲んじゃったの?!


【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】違うよ! ただの恐喝じゃん! 足元見やがって!


【勝政】は。
【勝政】お言葉ですが、殿。
【勝政】実継様も立派になられました。
【勝政】昔はあのようなワガママを言う方ではなかったのですが。
【勝政】成長とは、この事を言うのですかね。


【殿】懐かしんでんじゃないよ! 土地大事よ?! 弱小だもん!


【勝政】そのようなこと!


【殿】え、我の城何万石?


【勝政】は。
【勝政】四万石でございます。


【殿】小さいじゃん!
【殿】我の土地小さいじゃん!
【殿】正継(まさつぐ)より小さいじゃん!
【殿】てか正継、戦に出てないじゃん!
【殿】「お腹が痛いで候」とか言って出てなかったじゃん!


【勝政】は。
【勝政】その件ですが、極秘裏に作戦を立て、敵国の兵糧を落とし、
【勝政】殿がお召しになる前に毒味をしたところ、腹痛を患ったもようです。


【殿】そんなことしてたの?!


【勝政】は。
【勝政】軍評定(いくさひょうじょう)の場で、良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】言ったっけ?! …言ったか。
【殿】…吉継(よしつぐ)のおやじに八万石?!


【勝政】は。
【勝政】吉継様もまた、立派な軍価を上げられました。


【殿】え、そうなの?


【勝政】は。
【勝政】吉継様は先の正継様の一件で、兵糧(ひょうろう)を落とす際、七名の大将首を取りました。


【殿】七名って…え、伝説の七大将?


【勝政】は。
【勝政】左様でございます。


【殿】おい、すげぇな! 吉継のおやじすげぇな! まだまだ現役じゃん!


【勝政】は。
【勝政】しかし、殿。 実継様なのですが…。


【殿】ん、なんだ?


【勝政】謀反を企てたとして斬首刑に処しました。


【殿】いつ?!


【勝政】は。
【勝政】先頃でございます。


【殿】さっき?! 知らないんだけど!


【勝政】は。
【勝政】殿が御休みになられるとき、良きに計らえとのお申し付けでしたので、
【勝政】睡眠を妨げるわけにもいかず、決行いたしました。


【殿】起こしてよ! 起こしていいよ!
【殿】え、正継とか吉継のおやじは知ってるの?


【勝政】は。
【勝政】正継様は腹痛の末、お亡くなりになりました。


【殿】毒でも盛られていたか。


【勝政】は。
【勝政】極秘裏に間者を遣い、敵国の兵糧に毒を盛らせました。


【殿】え、正継知らなかったの?


【勝政】は。
【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】そこは言おうよ! 毒盛ってるよって!
【殿】言わなきゃ!


【勝政】は。
【勝政】しかし、謀反の可能性も捨てきれず、殿のためと思い、そのようにした次第でございます。


【殿】そ、そうか。
【殿】吉継のおやじは?


【勝政】は。
【勝政】吉継様ですが…。


【殿】なになに。 なにやら不穏だな。


【勝政】は。
【勝政】捕虜の女どもの長屋に夜な夜な赴いていたそうで。


【殿】おい、すげぇな! 吉継のおやじすげぇな!
【殿】まだまだ現役じゃん! てか、なにやってんだよ!


【勝政】は。
【勝政】捕虜だからと見過ごしていましたが、さすがに看過できず…流刑に。


【殿】流しちゃったの?!


【勝政】は。
【勝政】左様でございます。


【殿】え、じゃあなに?

【殿】吉継のおやじは流刑で、正継は腹痛で亡くなって、実継は斬首されて…。


【勝政】は。
【勝政】吉川家は途絶えました。


【殿】…土地は?! 我の土地はどうなってるの?!


【勝政】は。
【勝政】吉川家が潰えた(ついえた)ことで、殿の領分は元に戻っております。
【勝政】これも全て、良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】申したけどさぁ。 我、申したけどさぁ! なんか釈然としないよ…。
【殿】せめて正継と実継の亡骸は良きに計らって。


【勝政】は。
【勝政】承知いたしました。
【勝政】ところで、殿。先のお話なのですが…。


【殿】先の話?


【勝政】(ゴニョゴニョ)先の、ご奉仕の件でございます。


【殿】おー。
【殿】それがどうかしたか。


【勝政】は。
【勝政】先ほど、目配せをしておき、支度をさせておきました。


【殿】え!


【勝政】良きに計らえとのお申し付けでしたので。


【殿】やるじゃん! 勝政やるじゃん!
【殿】え、なになに? 呼んで呼んで!


【勝政】は。
【勝政】では…入られヨロロロロ…!


【殿】え、やだ!
【殿】だいたい察したから!
【殿】待って! 入れないでぇぇえええ!

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