デリュージョン
ここが、僕が担任するクラスかぁ。
すぅ~…はぁ~…。
うん。いい匂いだ。
青春の匂いって感じがする。
授業か…楽しいだろうなぁ。
(黒板に問題を書く)
(咳払い)
…この問題、解けるやつー。
はい、じゃあ…ユキノ。
ユキノはいっつも手をピンと挙げてくれるな。
先生嬉しいぞ。
さぁ、ユキノ。答えはなんだ?
…そうだ。正解だ。すごいぞユキノ。
ほらみんな、ユキノに拍手だ。
答えてくれてありがとう、ユキノ。
(黒板に書きながら)
じゃあ、次の問題は…。
ヨシコ。まだ飯の時間じゃないぞ。
じゃあ寝るって…補習になっても知らんからな。
…とか、フランクで皆から愛される先生になりたいな。
学校には先生、生徒以外にもいろんな人がいる。
用務員さんだってそうだ。
あ、用務員さん! お疲れ様です。
いつもお掃除、ありがとうございます!
その用務員さんが、実は学園長だったり。
ドラマの観すぎかな。
ユキノの成績…ですか。
はい、わかってます。
元々はできる子なんですけど…。
最近、何かに悩んでるみたいで…。
その悩みを聞き出すのが、担任の僕の仕事…?
学園長…僕、がんばってみます!
でもその後、悩みを聞き出せないまま、ユキノは成績をどんどん落としていって、補習を受けることになるんだ。
おーし。
それじゃあ、補習始めるぞー。
あれ。ヨシコは?
…あいつどこ行った? ミキ、知らないか?
屋上で飯食ってる?
ヨシコのやつ…補習に来なかったら留年だぞ。
わかってるのかな…。
あと誰だっけ…ヨシコ、ミキ…
アカリとミウと…ユキノか。
ユキノ…いや、補習を始めよう。
補習を終えて解散になったあと、僕は職員室に行くんだけど、教室に忘れ物をしてしまって急いで戻るんだ。
…ユキノ? 何してるんだ?
早く帰りなさい。
そこでユキノが告げてきた。
綺麗な夕焼けを背に、消えてしまいそうな声で。
先生が好きだって。
もちろん気持ちは嬉しいけど、と返事したよ。
僕達はあくまで生徒と先生。
間違いがあってはいけない。
ユキノ、僕は君を立派に卒業させたいんだ。
え…? これは…?
私だと思ってって…あ! おい、ユキノ!
渡されたのは、この体操着だった。
…ユキノ……。
(思いきり匂いを嗅ぐ)
すぅ~…はぁ~…。
あ、警備員さん! お疲れ様です。
いつも警備、ありがとうございます!
じゃあ、僕はそういうことで!
ここで捕まったら、僕の人生は終了だ。
留年では済まされない。
そう思った僕は、警備員を押し退けて駆け出した。
「…邪魔だぁ!」
そりゃあ逃げるさ。
不法侵入だもん。
僕は追ってくる警備員の裏をかいて、昇降口ではなく屋上へ向かったんだ。
でも警備員は大声を出しながら後を付けてくる。
こら、待て。 変態野郎…って。
変態野郎って言葉に、妙な快感を覚えたのは言うまでもない。
その通り。 僕は、変態野郎さ。
だって…わざわざ電車とバスを乗り継いで、深夜の女子校に忍び込んでるんだもん。
変態以外の何者でもないだろ。
階段を上りきって、屋上に出る扉の前に着いた。
…く、くそっ! 開け…開けよっ!
…おりゃっ!!
体当たりでこじ開けた屋上で、僕は、警備員に追い詰められてしまった。
絶体絶命のこの状況を乗りきるには、僕が本当の教員として振る舞うこと。
ちょっと待ってくれ警備員さん!
僕は! 本当に…あの、ここの! 教員で!
えと、今は! 逃げたんじゃなくて!
生徒…生徒を! 迎えに、来たんです!
はい! 本当ですって!
ほら! ここに!
…飯食ってる場合じゃない!
補習始めるぞ。ヨシコ。